カール・レーヴェ:バラードと歌曲の世界

カメラータⒹCDT1082~3(2枚組) ¥4200

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■各誌からご高評をいただきました。

レコード芸術 2010年8月号

ひところカール・レーヴェ(1796~1869)のバラードが人気をあつめた時代があり、フィッシャー=ディースカウをはじめ、ホッターなどの名歌手の録音も多くリリースされたものだった。
私がレーヴェの作品を手にしたのは戦前、ビクター赤レーベル10吋のゲルハルト・ヒュッシュによるもので、A面がオーケストラ伴奏による〈鳥刺しハインリヒ〉、B面が〈オイゲン王子〉だった。当時レコードでレーヴェの作品はこの2曲しかなかったと記憶する。続いてはコロムビアの12吋青盤で、やはりヒュッシュの〈アーチボード・ダグラス〉だった。シュルスヌスの〈時計〉もポリドール盤の人気曲だったが、一番の名曲《詩人トム》は、その頃日本ではスレザーク盤が出ていなくて、私はあらえびす先生のお宅まで押しかけたものだ。
レーヴェの作品は大部分がバラードの分野に入り、純粋な歌曲よりもドラマを展開していくその手法の巧みさ、歌手の劇的表出に思わず引きずられてしまうそのドラマタイズの面白さは、シューベルトの初期バラードに大きな影響を与えている。
バラードという性格のため、声域はバリトン、バスの作品が多く、女声のための作品は少ない。それでもまだCD化されていない《女の愛と生涯》の全曲(シューマンが作曲しなかった第9曲もある)や、女声にふさわしい《ネック》など、未開拓な曲は数えきれない。
バス・バリトンの佐藤征一郎がこのレーヴェの世界を掘り起こそうと、20年以上もかけて定期的にレーヴェ研究と演奏に打ち込んでいたのは周知のことであるが、今回その一部がCDとして姿を現したのはよろこばしい。膨大な作品の全部を望むのは無理な話であろうが、今後も開拓は続けてほしい。
佐藤の今回の2枚は作品1の1〈エトヴァルド〉から始まる。レーヴェのバラード第1号の凄さは、この曲一曲を聴いただけで、聴くものに強烈な衝撃を与えるだろう。ただ最初の曲ということで佐藤はだいぶ気負っているのか、力みが残る。〈魔王〉ではシューベルトにみられないリアルな書法が印象深い。〈猫の女王様〉のようにリラックスした時の方が声にも自由さが出てくる。《オウム》も同様で、佐藤はさらに自由な歌唱を展開しているし、バッソ・コミコの味も十分で笑わせる。高橋アキのピアノも十分に楽しく弾いているが、もうひとつ大胆さもほしい。 (畑中 良輔 氏)

邦人演奏家によるレーヴェのバラードのモノ・アルバム(2枚組)がリリースされた。わが国初の快挙である。バス・バリトンの佐藤誠一郎は、1985~2008年にかけて、レーヴェのバラード全曲演奏という壮大なプロジェクトに挑戦しみごとクリア。余勢を駆ってこの録音をはたした。
レーヴェのバラードは現在ではシューベルトやシューマン、ヴォルフなどのリートにくらべていくぶん影が薄い。レーヴェは美声の持ち主で生前は各地で自作の曲を歌ってまわり、家族がともにたのしめるエンタテインメントとして絶大な人気を誇った。核家族化のいちじるしい現在、彼の作品は日陰に押しやられているけども、その復権は家族のきずなをとり戻すよすがになるのでは。その意味でこのバラード集の発売は時宜にかなった企画だ。
ドイツ本国でもレーヴェ生誕200年にあたる1996年に、彼のリート&バラードの全曲録音が企画され、2007年に完了した。わが国のこの2枚組盤が、本国の全集盤とともにレーヴェへの関心を喚起するのを願わずにはいられない。
レーヴェのバラードは①〈エドヴァルト〉や《海を渡るオースディン》、シューベルトにも付曲のある〈魔王〉のような伝承物語、②〈聖フランチェスコ〉や《鳥刺しハインリヒ》のような史実モノ、③《小さい家》や〈追いかけてくる鐘〉などのユーモアに富む作品、④《詩人トム》や《妖精》、《美しい埋葬》のような美しいメロディの作品に大別できる。
ここでは①~③が主体。バス・バリトンの朗々とした声を存分に生かした選曲からなる。20年以上にわたって演奏し続けてきたレーヴェの曲が歌い手の全身にしみ込み、解釈とか奏法という小賢いテクニックを超え、自分のものになりきった揺るぎない自信が漲っている。古老が子供に語って聞かせるようなおおらかさがにじみ出て、語り口のうまさ抜群、当意即妙さもたっぷり。つい引き込まれて聞き飽きることがない。有節形式でも通作形式に聞こえてくる例もあるほど。
高橋アキのピアノがまたすばらしい。バラードの演奏にありがちなドラマティックな展開を誇張せず、また声と張り合うことなく控えめ。それが逆に暗示力に富み、想像力を掻き立て、レーヴェがピアノに込めた情景や心理描写を鮮やかに浮かび上がらせてくる。その自然さとチャーミングな味わいはレーヴェの伴奏では筆者にはじめての体験となった。 (喜多尾 道冬 氏)

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