2020年4月25日、 佐藤征一郎:ICLG国際カール・レーヴェ協会(ドイツ)名誉会員記念として、日本語対訳朗読付3枚組CDドイツのバラード作曲家「カール・レーヴェのワンダーランド」発売しました。

各誌からご高評をいただきました。

『ぶらあぼ』 2020年6月号掲載

外国人として初めて国際カール・レーヴェ協会名誉会員に迎えられた佐藤征一郎が、1985~2008年に行ったレーヴェ全歌曲連続演奏会のライブ録音。本作には、1985~90年の8公演の演目、すなわち初期の作品(有名な「魔王」を含むop.1~13)が、詩の朗読と歌唱を交互に置いた形で収録されている。このドイツのバラード作曲家の多様な世界を伝える偉業の貴重なドキュメントであり、入念な演奏ノートを含めて資料的価値も絶大。朗々として迫真的な歌唱も、シューベルトとは異なるレーヴェの魅力を知らしめる。(柴田 克彦 氏)

『音楽現代』 2020年7月号掲載

リート&バラードを多く世に送ったレーヴェの連続演奏会(1985~1990)のライブをCD3枚組に収録。岸田今日子など名優の歌詞朗読を置いてから一曲ずつ歌うという贅沢な演奏であり、名歌手佐藤征一郎の声音も良く通るが、評者が最も魅せられたのは「歌いまわしの工夫」である。例えばCD1#6〈魔王〉のくどくない感じ、CD1#12〈あこがれ〉の淡い明るさ、CD2#2の大曲〈ヴァルハイデ〉における声のドラマの持続力、CD3#20の力尽きた巡礼で低音域を絞った声量で深く響かせるさま(ピアノの牧野縝もタッチが控え目)など、特に心に染みる解釈に。「演奏家の格」を強く感じされる上品な歌いぶりは現代の聴衆にも届くと思う。(岸 純信 氏)

『レコード芸術』 2020年7月号掲載

確かにカール・レーヴェのバラードは他に類のない「ワンダーランド」を作っていて、この3枚組はその世界を日本において明らかにした、ひとつの偉業と見るべきだろう。1985年から90年まで、佐藤征一郎が行ったコンサートのライブが、この3枚に収められている。まず詞の朗読があって、次に歌われるスタイルもそのまま入っている。字幕のほうが合理的かとも思うが、このスタイルもコンサートの特徴だったから、存分に語られる物語としてのバラードを味わうことができる。ただし歌に合わせた会場の音響のせいか、語りは少々聞きとりづらい。歌によって、あるいは時期によって、佐藤征一郎の歌唱に好不調はあるものの、きちんと、そして精密に、レーヴェのバラードの魅力を伝えようとする姿勢は変わらない。その姿勢と情熱を受けとめようとする者には、シューベルトからシューマンと続くドイツ歌曲とは別の、ロマン的な物語であるバラードの魅力が、間違いなく伝えられるはずだ。一番の聞きものはやはり大作《ヴァルハイデ》で、朗読と歌手とでどっぷり起伏に富んだ物語の世界に浸れる。だが、短い作品にも佳作があり、いずれもていねいに歌われている。広く受け入れられているとはとても言い難いレーヴェのバラードの世界だが、日本では紹介の試みが続いていて、その土台となっている演奏が、ここにある。(堀内 修 氏)

『レコード芸術』 2020年7月号掲載 推薦

 佐藤征一郎と言えば、1970年代から90年代にかけて活躍した日本を代表するバス。70年代にはケルンとフライブルクの歌劇場で歌い、国際的にも認められていた。オペラ歌手としての活動の一方、リート歌唱でも優れた成果を示し、レーヴェのバラードに傾倒。それを認められて、2014年にドイツ国際レーヴェ協会から名誉会員に迎えられたという。当盤は、それを記念してのもので、80年代後半のライブから29曲が集められている(3枚組!)。収録時の演奏会は、歌曲と詩の朗読で進められたが、本盤では、それがそのままディスク化されている。朗読を担当しているのは、長岡輝子(声楽家の中山節子が一部代演)と岸田今日子。詩の内容を理解しながら歌曲を聞く、という配慮が、当時として新しく感じられる(そして、名女優たちの朗読が素晴らしい)。演奏も、本格的な内容。声は張りに満ち、円熟期(40代後半)の充実した響きが聞きとれる。一方歌唱には、明確な形式性とメソッドが感じられ、語りも演技性に満ちている。レーヴェはもともとバスに向いているが、総じてドラマの勘所を押さえた歌いぶり。佐藤の演奏ノートがブックレットに掲載されているのも、歌手の仕事部屋を覗くようで興味深い。圧巻は、30分近くかかる大作《ヴァルハイデ》。15分の朗読の後、演奏が始まるが、佐藤は長丁場を飽きさせることなく、豊かな声で「演じ切って」いる。音は一部かなり貧弱だが、メッセージ性の高い記録である。(城所 幸吉 氏)

『毎日新聞-芸能』 5月19日夕刊掲載 特薦

佐藤征一郎(バス・バリトン)、長岡輝子(朗読)、宮原峠子(ピアノ)他/カール・レーヴェのワンダーランド(ライブノーツ)
日本で行われたカール・レーヴェの連続演奏会の第1回(1985年)から第13回(90年)までの中から佐藤征一郎の歌唱を集めたライブ録音の3枚組み。偉大な演奏であり偉大な記録である(ドイツにおいてもレーヴェの連続演奏会の企画は聞いたことがない)。まず詩の和訳が朗読され、理解の場が整えられる。佐藤の奥行きのある声、真摯(しんし)で豊かな表情によって、レーヴェの深い構造、思いもかけぬ音楽的展開の見事さ、詩に隠された本質を剔出(てきしゅつ)するひらめきが余すところなく表出されている。ドイツ歌曲志向を持ったピアニストたちも一体となって、レーヴェの知らざれる魅力を堪能させてくれる。もちろん、ゲーテの詩に付けた《魔王》も入っている。この演奏を聴くと、ワーグナーの言葉「君たちはシューベルトの《魔王》が一番だと思っているが、レーヴェの曲はそれよりもずっと優れている。シューベルトの《魔王》は必ずしも真実ではない。しかしレーヴェの《魔王》は真実だ」との評言が納得できる。長年の研究成果を反映した佐藤による詳細な解説も貴重だ。(梅津 時比古 氏)

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2019年4月、CD《チマローザ:宮廷楽士長&ペルゴレージ:奥様女中》/佐藤征一郎、発売!

■ 各誌からご高評をいただきました。

『ぶらあぼ』 2019年6月号掲載

17~18世紀のイタリアで、シリアスなオペラの幕間に息抜きとして上演され人気を博した「インテルメッツォ」。その有名な2作品に挑んだ、日本の名バスバリトンによる絶頂期(1984年)のライブ演奏が登場。オーケストラの練習風景を各楽器奏者と格闘するマエストロの視点で描いた一人芝居《宮廷楽士長》はイタリア語、小間使いが金持ち老人の妻の座におさまる過程を面白おかしく描いた《奥様女中》は日本語訳による上演だが、どちらもステージ上の楽し気な雰囲気が絶妙に伝わってくる。両公演のピアノ伴奏を担当した川口耕平の明るい音色も素晴らしい。(東端 哲也 氏)

『音楽現代』2019年7月号掲載

80年代に大活躍したバッソ・ブッフォ佐藤征一郎の美点をしかと伝える全曲盤。チマローザ《宮廷学士長》はイタリア語(対訳付き)、ペルゴレージ《奥様女中》は日本語歌詞で歌われているが、どちらも佐藤の言葉が通り良く、表情豊かで切れも良いフレージングと相俟って音の妙味を鮮やかに伝えてきた。《奥様女中》のヒロイン紙谷加寿子はひと昔前の細めのスーブレットだが(訳詞も担当)、ドラマの弾けた感を伝えるべく熱唱。ピアノの川口耕平のしゃきっとしたタッチも、2つのインテルメッツォの洒脱さを雄弁に打ち出すものと思う。どちらも84年のライヴだが、音は鮮明で聴きやすい。アンコールとして伝・ロッシーニの〈猫の二重唱〉も併録。(岸 純信 氏)

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2014年度 国際カール・レーヴェ協会名誉会員に推挙される

Photo : Dr.W.Rathgen

シュテッティンばかりではなくポーランドのワルシャワ(特に特命全権大使、山中誠ご夫妻のお力添えに感謝いたします)、クラクフ、ポオーツクの四都市を周遊した「日本歌曲&レーヴェ歌曲コンサート」の翌年のことです。2014年4月26日に私はドイツ国際カール・レーヴェ協会名誉会員に推挙されました。ポルシェ代表から内定の国際電話をいただいたときは、夢ではないかと驚きました。学生時代からの憧れの名歌手の仲間に迎えられた文字通りの名誉でした。ドイツの宮廷歌手の称号を持つ H.プライ (1996年認定) T.アダム (2001) K. モル (2002) D.フィッャーディー スカウ(2004) P.シュライヤー(2006) R. トレーケル(2008) に続く七人目です。既にレーヴェのCDをリリースしているドイツ人歌手も多い中、選出されたのです。オーストリア、オランダ、イギリス、アメリカ国籍を持つレーヴェCDを出している歌手たちも知っていますが、これも驚いたことに、私はドイツ人以外初めての外国人でした。P・シュライヤーだけレーヴェのCDや演奏記録がありませんので、ノミネートは必ずしもレーヴェのスペシャリストだけではないようです。ドイツ音楽を専門とした私の集大成をドイツの名誉として、結果を出してくれたとしたら、こんな光栄なことはありません。嘗て私がドイツに飛ぶとき、中山悌一先生が、在独の日本人指揮者に推薦状を書いてくださいましたことを思い出しました。「……勉強次第では、ドイツで一流の歌手になる能力を持っています…… 」(1970年5月11日付)。長い間の目標とプレッシャーになっていましたが、50年後の今、ようやく中山先生に成果をご報告できるような気がします。

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ポーランドでレーヴェをうたう

地上4mくらい宇rのオルガン席の鉄サクにつかまってシュテッティン大聖堂のミサで献歌
ミサの中 Dr.フィリペック氏が密かに撮影

北ポーランドのドイツ国境沿いのシュテッティン(Szczecin/Stettin)市は、レーヴェが生涯の大半46年間活躍した場所です。そこを訪れることは長年の夢でしたが、元日本ポーランド文化協会会長Dr.S.フィリペックご夫妻のご支援をいただいて2013年9月にそれが実現します。その上シュテッティン大聖堂のミサでは、レーヴェの心臓が置かれているパイプオルガンの支柱のすぐ隣で、レーヴェの歌曲「聖フランチェスコ」「ヴィリアと乙女」(ポーランド最大の詩人A.ミキィエヴィッチの詩による)、そして私の委嘱作品、川口耕平さんが作曲された宮沢賢治の「雨ニモマケズ」(世界初演)、以上の三曲をパイプオルガン伴奏で献歌することができました。72歳で亡くなった彼の縁りの地で当時72歳の私が歌うことができたのは、偶然を超えてレーヴェの魔法のなせる業だったのかもしれません。その夕方にはレーヴェの歌曲、バラードをメインにして日本歌曲も入れたリサイタルが、地元アレキサンドラ財団の主催で開催されました。演奏会前の短い合間にシュテッティン市立図書館を訪れ、私が編集上梓した全音版「レーヴェ歌曲集」上下巻を寄贈、大変喜ばれた館長、専任職員の方々とお会いしました。念願のレーヴェの資料、古い楽譜、自筆譜を妻と一緒に見せていただき、おまけに調査のためなら自由につかいなさい、と部屋まで用意してくださいました。

シュテッティン市立図書館資料室で自筆譜などを見せていただく
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カール・レーヴェ生誕200年ライブがついにCDリリース

カール・レーヴェ生誕200年の1996年記念のリサイタル ピアノはD・ボルドウィンのライブがナミ・レコードから7月25日、ついにリリースされます( WWCC-7729)
レーヴェのCDの第3弾です
ぜひ聴いてそのワンダーランドをお楽しみください

佐藤征一郎(Bs-Br)ダルトン・ボールドウィン

発売日:7月25日
制作: ライヴノーツ
発売元:ナミ・レコードCo.LTD
WWCC-7729

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FAX only: 044-856-7428 (Sato) まで

■各誌からご高評をいただきました。

CDジャーナル 2013年9月号

演劇的な起伏にとんだ歌曲としてのバラードを確立したレーヴェ(1796~1869)の作品を、レーヴェのスペシャリストとして国際的にも知られる佐藤征一郎が歌ったリサイタル。歌詞の内容もピアノ伴奏の鋼かも知りつくした佐藤の感情表出にとんだ歌唱が、レーヴェの真価を伝える。(友)

ぶらあぼ 2013年9月号

日本ではいまだ広く知られているとはいい難いカール・レーヴェの演奏・研究の第一人者佐藤征一郎が、1996年に開いた作曲家生誕200周年記念リサイタルのライヴ。第一人者と書いたが、佐藤はほとんど孤軍奮闘で、シューベルトと同時代の、この“もう一人の歌曲王”の紹介に尽くしてきた。レーヴェの物語性に富む歌曲(バラード)を佐藤は「楽劇的時空間」と位置付けているが、旋律とドラマとが緻密なバランスで結びついた佐藤の演奏も、まさに独創的。絶妙な語り口に引き込まれる。演奏者自身の邦訳・解説による、手作り感あふれるライナーも貴重な資料となろう。 (宮本 明 氏)

レコード芸術 2013年10月号 推薦

佐藤征一郎はレーヴェのスペシャリストとして、1985~2008年にかけて全歌曲の連続演奏を行うという偉業をなしとげた。本国ドイツでもなかなか類を見ない快挙ではなかろうか。一昨年CD2枚組でリリースされたレーヴェのバラード&歌曲集はその成果の一端を伝えていた。ここに紹介するCDは1996年、レーヴェ生誕200年記念にダルトン・ボールドウィンのピアノを得て催したリサイタルのライヴである。
何よりもまず耳を打つのはレーヴェのバラード&歌曲を歌うにふさわしいバス・バリトンの朗々とした声である。過去の伝説やおとぎ話などの世界がその声に乗って生き生きと蘇ってくる。昨今はやりのテキストや楽譜の重箱の隅をほじくるようなこまかな解釈に眼をとられるのではなく、古老が子供に語って聴かせるような親しみ深い大らかさとのどかさを示し、スケールの大きい想像の世界に引き入れる。ユーモアや磊落さにも欠けず、また〈エトヴァルト〉などでは魔的な切迫感に身をさいなまれるすごみもあり、人間表現の幅の広さを印象付ける。そして心からレーヴェの歌をたのしみ、そのたのしさを伝えようとし、その楽しさがまぎれもなく伝わってくる。その人間的なあたたかみある巨大さがいちばんの聴きものだ。ボールドウィンのピアノは声のスケールの大きさを補う、嚙んで含めるような細部のこまやかさと達意、軽妙さとしみじみとした滋味で堪能させる。 (喜多尾 道冬 氏)

レコード芸術 2013年10月号

ワーグナーやヴェルディが生誕200年で騒がれていても、カール・レーヴェとなるとそんな年があったのかと、思い出すこともできない。1996年だったから、もう17年も前になる。これはその時に記録された佐藤征一郎のリサイタルのライヴだ。
佐藤征一郎こそ、レーヴェを歌い、広める日本での第一人者だ。レーヴェ協会を率いてもいる。これはその佐藤征一郎の、歌手として大いに活躍していたころの記録でもある。いま改めてレーヴェの歌の魅力を世に問おうという意図もあろうかと思う。
ドイツ歌曲の中では重要な位置を占めながら、確かにレーヴェは年を追うごとに存在感が薄くなっている。ここではレーヴェの代表的な作品がいくつも歌われている。《海を渡るオーディン》も〈魔王〉も。もう少し録音の状態がよかったら、意味がより明確に伝わってきたかもしれない。佐藤征一郎の歌にも、時代に逆行するようなところがありそうだ。というのも、レーヴェのバラードには不可欠な、語って聞かせる、という要素が重視されていて、きちんと言葉を伝えるからだ。確かに正統的なレーヴェの仮称はこういうものだろうと理解できる反面、いまの主流からはずれているようにも感じられてしまう。
シリアスなバラードよりも、〈娘たちは風のように〉や《フィンドレイ》のような、軽い歌のほうが、印象に残る。 (堀内 修 氏)

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浮世絵ファンタジー バス独唱とピアノのための私抄《冨嶽三十六景》 文化庁芸術祭協賛公演ライブ

カメラータⒹCDT1089 ¥2700

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■各誌からご高評をいただきました。

レコード芸術 2012年8月号

ムソルグスキーの《展覧会の絵》の向こうを張ったわけではなかろうが、北斎の「冨嶽三十六景」の音楽家は意表を突く。なるほどこういうてもあったかとはたと手を打ちたくなる。さらに北斎の絵に合わせて歌詞がつけられ、声も加わる。北斎の版画自体はほとんどの富士が小さく見える遠景の静謐なたたずまいと、それに気を留めることなく孜々として仕事にいそしむ当時の庶民の活力との対象をみごとに隈どっているが、テキストは庶民の屈託のないユーモラスな生き方に寄り添って北斎の版画と違和感がない。音楽も当時の日本民謡特有のリズムを存分にとり入れ、江戸時代の情景を活写しようとしている。
曲は全36景のうち半分の18景を抽出して、途中にピアノ・ソロの間奏曲が入る。それだけでなく第7曲〈上総の海路〉では帆をふくらませる風の音や帆柱のきしむ音、第8曲〈神奈川沖浪裏〉では波の怒涛の音、第13曲〈山下白雨〉では雷鳴などの効果音も入り、随所に変化の工夫が凝らされている。また全18景の版画がブックレットに収められているのもありがたい。
バス・バリトンの佐藤征一郎はつねに前向きの明るさと闊達さを失わず、当時の庶民の生き方と一心同体化して大胆に生きるよろこびを放射している。第15曲〈凱風快晴〉では壮大な富士のたたずまいへの畏敬の念と賛歌がほとばしり、一方第17曲〈甲州石班沢〉ではしんみりとした感慨にも欠けない。 (喜多尾 道冬 氏)

葛飾北斎の「 冨嶽三十六景 」から18の絵が選ばれ、それに応する関根榮一の詩に寺島尚彦が作曲した、バスとピアノのための歌曲集で、1996年に平成8年度文化庁芸術祭協賛として行われたコンサートで歌われ、録音されている。歌っているのはこの歌曲集の依頼者でもある佐藤征一郎だ。
第1曲が〈江戸日本橋〉で、第18局の〈尾州不二見原〉まで続く。もちろん〈凱風快晴〉のように有名な絵はもれていない。CDには、モノクロだと少々小さいのだけれど、北斎の絵とそれに対応する詩が付けられていて、絵から詩、そして歌曲という流れがはっきりとわかる。
絵、というか描かれている場面の説明みたいなのもあり、詩は新たな創造というより、絵への賛辞に近い。そして歌は、シュプレッヒシュティンメではないのだけれど、歌うというより語りに近づいている。それを佐藤征一郎は完全に歌いこなしていて、ひとつの世界が聴こえる。絵を素材にして別の芸術としての歌曲集を作り出したのではなく、あくまで北斎の絵そのものへの賞讃に徹しているところが、日本的やり方というか、奥床しい。当然第8曲〈神奈川沖浪裏〉のようなドラマティックな絵では歌も起伏を増し、当時の佐藤征一郎の力量が、遺憾なく発揮されることになる。これまでの文化庁芸術祭音楽部門の成果として、大切な記録でもある1枚ではないだろうか。 (堀内 修 氏)

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カール・レーヴェ:バラードと歌曲の世界

カメラータⒹCDT1082~3(2枚組) ¥4200

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レコード芸術 2010年8月号

ひところカール・レーヴェ(1796~1869)のバラードが人気をあつめた時代があり、フィッシャー=ディースカウをはじめ、ホッターなどの名歌手の録音も多くリリースされたものだった。
私がレーヴェの作品を手にしたのは戦前、ビクター赤レーベル10吋のゲルハルト・ヒュッシュによるもので、A面がオーケストラ伴奏による〈鳥刺しハインリヒ〉、B面が〈オイゲン王子〉だった。当時レコードでレーヴェの作品はこの2曲しかなかったと記憶する。続いてはコロムビアの12吋青盤で、やはりヒュッシュの〈アーチボード・ダグラス〉だった。シュルスヌスの〈時計〉もポリドール盤の人気曲だったが、一番の名曲《詩人トム》は、その頃日本ではスレザーク盤が出ていなくて、私はあらえびす先生のお宅まで押しかけたものだ。
レーヴェの作品は大部分がバラードの分野に入り、純粋な歌曲よりもドラマを展開していくその手法の巧みさ、歌手の劇的表出に思わず引きずられてしまうそのドラマタイズの面白さは、シューベルトの初期バラードに大きな影響を与えている。
バラードという性格のため、声域はバリトン、バスの作品が多く、女声のための作品は少ない。それでもまだCD化されていない《女の愛と生涯》の全曲(シューマンが作曲しなかった第9曲もある)や、女声にふさわしい《ネック》など、未開拓な曲は数えきれない。
バス・バリトンの佐藤征一郎がこのレーヴェの世界を掘り起こそうと、20年以上もかけて定期的にレーヴェ研究と演奏に打ち込んでいたのは周知のことであるが、今回その一部がCDとして姿を現したのはよろこばしい。膨大な作品の全部を望むのは無理な話であろうが、今後も開拓は続けてほしい。
佐藤の今回の2枚は作品1の1〈エトヴァルド〉から始まる。レーヴェのバラード第1号の凄さは、この曲一曲を聴いただけで、聴くものに強烈な衝撃を与えるだろう。ただ最初の曲ということで佐藤はだいぶ気負っているのか、力みが残る。〈魔王〉ではシューベルトにみられないリアルな書法が印象深い。〈猫の女王様〉のようにリラックスした時の方が声にも自由さが出てくる。《オウム》も同様で、佐藤はさらに自由な歌唱を展開しているし、バッソ・コミコの味も十分で笑わせる。高橋アキのピアノも十分に楽しく弾いているが、もうひとつ大胆さもほしい。 (畑中 良輔 氏)

邦人演奏家によるレーヴェのバラードのモノ・アルバム(2枚組)がリリースされた。わが国初の快挙である。バス・バリトンの佐藤誠一郎は、1985~2008年にかけて、レーヴェのバラード全曲演奏という壮大なプロジェクトに挑戦しみごとクリア。余勢を駆ってこの録音をはたした。
レーヴェのバラードは現在ではシューベルトやシューマン、ヴォルフなどのリートにくらべていくぶん影が薄い。レーヴェは美声の持ち主で生前は各地で自作の曲を歌ってまわり、家族がともにたのしめるエンタテインメントとして絶大な人気を誇った。核家族化のいちじるしい現在、彼の作品は日陰に押しやられているけども、その復権は家族のきずなをとり戻すよすがになるのでは。その意味でこのバラード集の発売は時宜にかなった企画だ。
ドイツ本国でもレーヴェ生誕200年にあたる1996年に、彼のリート&バラードの全曲録音が企画され、2007年に完了した。わが国のこの2枚組盤が、本国の全集盤とともにレーヴェへの関心を喚起するのを願わずにはいられない。
レーヴェのバラードは①〈エドヴァルト〉や《海を渡るオースディン》、シューベルトにも付曲のある〈魔王〉のような伝承物語、②〈聖フランチェスコ〉や《鳥刺しハインリヒ》のような史実モノ、③《小さい家》や〈追いかけてくる鐘〉などのユーモアに富む作品、④《詩人トム》や《妖精》、《美しい埋葬》のような美しいメロディの作品に大別できる。
ここでは①~③が主体。バス・バリトンの朗々とした声を存分に生かした選曲からなる。20年以上にわたって演奏し続けてきたレーヴェの曲が歌い手の全身にしみ込み、解釈とか奏法という小賢いテクニックを超え、自分のものになりきった揺るぎない自信が漲っている。古老が子供に語って聞かせるようなおおらかさがにじみ出て、語り口のうまさ抜群、当意即妙さもたっぷり。つい引き込まれて聞き飽きることがない。有節形式でも通作形式に聞こえてくる例もあるほど。
高橋アキのピアノがまたすばらしい。バラードの演奏にありがちなドラマティックな展開を誇張せず、また声と張り合うことなく控えめ。それが逆に暗示力に富み、想像力を掻き立て、レーヴェがピアノに込めた情景や心理描写を鮮やかに浮かび上がらせてくる。その自然さとチャーミングな味わいはレーヴェの伴奏では筆者にはじめての体験となった。 (喜多尾 道冬 氏)

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委嘱創作ひとりオペラ「マクベス」

原作:W.シェークスピア
翻訳:木下順二
構成・バス独唱:佐藤征一郎
作曲:伊能美智子
アレンジ&シンセサイザー:深町 純

ポリドール(DCI-16593)

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ラジオ技術 2004年10月号

いまのこの国の声楽界を代表するバス・バリトン佐藤征一郎がモノ・オペラとして演じたシェークスピアの悲劇も大変すばらしい。「マクベス」には何種かの日本語訳が在するが、劇作家木下順二訳を佐藤が選び、自身のリサイタルでの歌唱を目的に伊能美智子に作曲委嘱した作品である。シェークスピアの創作を全篇モノ・オペラ化したのではなく、ダンカン王暗殺の決意、暗殺、暗殺後のマクベス夫人との対話、夫人の発狂、夫人死後のマクベスのモノローグなどドラマの要めとなるシーンを採り出し演じている。佐藤はマクベス、マクベス夫人、門番、医師、侍女などの役を当然独りで演じ、伊能の各シーンにかなった作曲も卓抜なら演出も出色。佐藤は声を変えることなく、バス・バリトンの声のまま口調、エロキューションの変化、抜群の表現力で独り何役を演じうたいきっている。悲劇はほとんどレチタティーヴォでうたわれるのだが、この見事な感情移入と劇表現は他の追従を許さないだろう。名唱名演、傑作といえるだろう。 (小山 晃 氏)

作曲者からのメッセージ

かれこれ十数年前 佐藤先生から ひとりオペラ「マクベス」の作曲依頼をいただいたとき 力もないのに歌を作りたい一心で お引き受けした私でしたが 先生が木下順二先生のシェークスピア訳を使われたことに興味を持ちました その日本語訳がリズミカルだったからです そこで私はレシタティーボというよりは 日本伝統の“語り”をたくさん入れさせていただいたのでした 佐藤先生も単に歌を歌うのではなく「演じたいのだ」と言われたことを思い出します 果たしてその演唱の素晴らしさはCDに残されておりますので 機会がございましたら ぜひお聞きいただきたいと思いますが このとき 佐藤先生はクラシック音楽の世界に“語り”のジャンルを 確立なさったのではないかと 私は思っています 西洋の雄弁術とは異なる この“語り”こそ 日本民族の歌の心ではないでしょうか (伊能 美智子 氏)

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